無料体験レッスンに潜む危険性

コラム

以前、ある習い事の先生が「無料体験レッスン」について苦い経験をしたというブログ記事を読んだことがある。

詳しい内容は忘れてしまったが、たしか絵画教室か工作教室の先生だったと思う。

その教室はグループレッスン形式で運営されており、月謝も比較的良心的な価格設定だった。そして、入会を検討している方のために無料体験レッスン制度も設けていた。

ある日、一組の親子が無料体験レッスンにやって来た。

教室は先生一人で運営していたため、本来であれば月謝を支払って通っている既存の生徒たちにしっかり時間を使いたかったはずである。

しかし、体験をきっかけに入会してもらえるかもしれないと思い、その日は体験に来た子どもに付きっきりで指導した。

無料体験レッスンと見学は似ているようで少し違う。

どちらも入会を検討している方を対象としているが、問い合わせの段階では、その親子にどれほどの入会意思があるのかまでは分からない。

そして結果として、その子どもは入会しなかった。

もちろん、体験後に入会しないこと自体は悪いことではない。

しかし、その先生の胸には複雑な思いが残った。

その日教室に来ていた既存の生徒たちは、新しい仲間が増えることを期待しながら協力してくれていた。それにもかかわらず、自分は体験者への対応に時間を取られ、既存の生徒たちに十分な指導ができなかったのではないか――そんな申し訳なさを感じたのである。

後になって先生はこう振り返った。

「問い合わせの段階で、もう少し丁寧にヒアリングをしておけばよかったのではないか。」

無料体験を申し込む方すべてが、本気で入会を検討しているとは限らない。中には時間つぶしや興味本位の方もいるかもしれない。

教える側にとって、無料体験レッスンは決して無料ではない。

準備の時間がかかる。

指導にも労力を要する。

そして何より、その時間は本来、既存の生徒たちのために使うこともできた時間なのである。

ここで考えなければならないのは、「無料か有料か」という問題だけではない。

本質は、

『限られた時間を誰のために使うのか』

という問題である。

経営者の時間には限りがある。

新規のお客様候補に使う時間も大切である。

しかし、今現在お金を払い、信頼して通ってくれている既存のお客様に使う時間も同じくらい大切である。

無料体験レッスンのために既存の生徒へのサービス品質が下がるのであれば、それは本末転倒かもしれない。

この話は国家資格士業における無料相談にも通じる。

相談者の中には本当に困っている方もいれば、情報収集だけが目的の方もいる。

だからこそ、有料相談や事前ヒアリングには意味があるのである。

料金を支払うという行為には、そのサービスに対する本気度や覚悟が表れることも少なくない。

もちろん、無料体験レッスンそのものを否定するつもりはない。

実際に、それによって素晴らしい出会いが生まれることもある。

しかし、教室の規模や運営体制によっては、無料体験が大きな負担になることも事実である。

特に先生一人で運営している教室では、「誰に時間を使うのか」という判断そのものが経営判断になる。

無料体験の問題は、実は無料体験だけの問題ではない。

経営者に与えられた有限な時間を、誰のために使うのか。

その優先順位の問題なのである。

恐るべし、「無料体験レッスン」。

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