行政書士法第1条の2・第1条の3を根拠とする告訴状作成業務と弁護士法72条との関係

コラム

― 士業制度の調和的解釈と適正な業際ガバナンス ―

近年、SNSや各種メディア、あるいは実務家のコミュニティにおいて、行政書士による刑事告訴状・告発状の作成業務をめぐり、その適法性や業務範囲に関する議論が活発に行われている。

とりわけ、この告訴状作成業務が弁護士法第72条(非弁活動の禁止)との関係でどのように位置付けられるのかについては、一部で過度な職域論争へと発展するケースも見られる。しかし、本稿で試みるのは、単なる「陣取り合戦」のような職域論争ではない。行政書士の職域を一方的に主張することを目的にするのではなく、「どこから弁護士の先生方にバトンタッチすべきか」という適正な連携の境界線について、コンプライアンス(法令遵守)の視点から客観的に考察することこそが本質である。

国家が構築した法制度全体、すなわち「法秩序の一体性」の中で、各資格者の役割をいかに調和的に理解し、国民の利便性に資するかという大局的な視点に基づき、行政法学の権威であり、法曹資格者(弁護士)としての視点も併せ持っておられた兼子仁先生の『行政書士法コンメンタール』の思想にも光を当てながら、行政書士による告訴状作成業務の法的位置付けと、現代の実務家に求められる適正な業際ガバナンスについて深く考察する。

1.行政書士法第1条の2・第1条の3と告訴状作成業務の法的性質

行政書士法第1条の2第1項は、行政書士が「官公署に提出する書類」を作成することをその本質的な業務として定めている。さらに、平成14年(2002年)の法改正によって新設された第1条の3は、

  • 官公署に提出する書類の作成に関する「相談」
  • 官公署への提出手続の「代理」

を行政書士の法定業務として明文化した。

刑事告訴状・告発状の提出先である警察署(司法警察員)や検察庁が「官公署」であることは疑いようのない事実である。したがって、これら書類の作成、それに伴う相談、および提出手続の代理は、行政書士法が明確に予定している業務領域に内包されていると解するのが自然かつ合理的な法解釈である。

ここで特筆すべきは、行政書士法が国会主導によって成立・発展してきた「議員立法」の系譜を引くという点である。これは、特定の行政官庁の都合によって職能が切り出されたものではなく、主権者たる国民の代表(国会議員)が、「国民の利便性の向上と社会の要請」を叶えるために必要不可欠な専門職として創設し、累次の法改正を経て権限を付託してきた法律であることを意味する。すなわち、行政書士の職能は極めて高い民主的正当性を背景に有している。

もっとも、同法は無制限・無条件の権限を付与しているわけではない。第1条の2第2項は、「他の法律において制限されている事項については、業務を行うことができない」旨を規定しており、行政書士の職能は常に他士業法、とりわけ弁護士法との調和の中で機能することが義務付けられている。その意味で、行政書士法と弁護士法は決して対立関係にあるのではなく、国民の権利利益の擁護という共通の目的のもと、異なるアプローチから役割を分担する相互補完的な制度として理解されるべきである。

2.弁護士法第72条との論理等整合性

弁護士法第72条は、弁護士以外の者が報酬を得て「法律事件」に関して「法律事務」を取り扱うことを原則として禁止している。これは、法知識の欠如した者が不当に介入することで依頼者や社会に不利益をもたらすことを防ぐための重要な安全弁である。

一方で、同条は、

「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合」

を明示的に例外として認めている。前述の通り、行政書士法は官公署提出書類の作成およびその相談業務を「法定の固有業務」として認めているため、同条の「別段の定め」に該当すると解するのが一般的である。

実務上、実効性のある告訴状・告発状を作成するためには、単に被害者の主観的な心情を書き連ねるだけでは足りない。

  • 客観的な事実関係の時系列に沿った調査・整理
  • 適用されるべき関連法令の精査
  • 犯罪構成要件(客観的構成要件・主観的構成要件)への緻密な当てはめ
  • 証拠資料(客観的証拠)との整合性の検討

といった高度な法的思考プロセスが不可欠である。行政書士法第1条の3が「相談」を明示的に認めている以上、こうした書類作成プロセスに不可欠な範囲での「法的検討」までもが一切許されないと解することは、法が行政書士という専門職を設けた制度趣旨そのものを没却することになりかねない。

最高裁判例(最一小判昭和46年7月15日等)の精神に照らせば、弁護士法第72条の禁止する「法律事務」とは、紛争性が成熟した「法律事件」において、当事者の代理人等として和解交渉や訴訟を追行するような行為を指す。したがって、行政書士が「書類作成のために必要な範囲内」で事実を整理し、構成要件を検討する行為は、直ちに弁護士法第72条に抵触するものではないと考えられる。

3.実務上の境界線と適正な業際ガバナンスの構築

しかし、この解釈は行政書士に対して「紛争処理全般」への関与を免責するものでは決してない。行政書士が告訴状作成業務を遂行するにあたり、最も厳格に遵守すべきは、「書類作成のために必要な法的検討」と「紛争解決そのものを目的とする法律事務(対外交渉等)」との境界線を正確に見極めるガバナンスの意識である。

具体的には、以下の領域において明確な一線を画さなければならない。

❌ 行政書士が厳に慎むべき領域(弁護士の専管業務)

  • 被害者代理人としての、相手方(加害者)との示談交渉・和解条件の調整
  • 民事上の損害賠償請求における金銭交渉
  • 紛争解決や示談成立を直接の目的とした一切の代理活動

⭕ 行政書士が適切に遂行すべき領域(行政書士の法定業務)

  • 被害事実のヒアリング、客観的事実の調査・整理
  • 証拠資料の分析・目録作成
  • 犯罪構成要件に合致した告訴状・告発状の作成
  • 官公署(警察署等)への提出手続の支援・代理

これらを踏まえると、現代の実務において最も合理的であり、かつ依頼者の利益を最大化できるのは、以下のような「有機的な分業・連携モデル」の構築である。

段階 / 役割行政書士の担う領域弁護士の担う領域
事実の整理と書面化丁寧な傾聴による事実関係の調査、証拠のスクリーニング、告訴状の作成・提出支援(書面作成の依頼も可能だが、より高度な司法手続きへの布石として連動)
対外交渉・紛争解決一切関与しない(速やかに弁護士へ引き継ぎ・バトンタッチ)相手方との示談交渉、民事訴訟対応、刑事手続における被害者参加の代理活動など

結びにかえて

行政書士制度は、国民の負託を受けた国会が主導して創設した「議員立法」にその根拠を持つ。すなわち、行政書士法第1条の2及び第1条の3に定められた職能は、国家の最高機関が認めた独自の価値と「高い民主的正当性」を備えた国家資格制度である。同時に、弁護士法第72条もまた、司法の健全性と国民の権利保護という重い使命を担う、等しく尊重されるべき国家の意思である。

したがって、我々専門職に求められるのは、どちらの法律が優位かという不毛な職域の奪い合いではない。互いの法定業務と、法創設の背景にある国民への想いを深く尊重し合い、依頼者ファーストの視点から適切な連携を図る賢明さである。

行政書士は、国会から与えられた法的権限の範囲(バウンダリー)を厳格に認識し、高度なコンプライアンス(法令遵守意識)を維持しながら、警察等の捜査機関が効率的に受理できる高品質な書面を提供する。そして、事案が対外的な交渉や本格的な民事紛争へと発展する局面、あるいはその兆候が見られた段階では、躊躇なく、かつ速やかに弁護士へと連携する。

このような「適正な業際ガバナンス」の実践こそが、複雑化する現代社会における最も成熟した専門職の姿であり、社会および依頼者に対する最大の価値提供へとつながるのである。

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