法律職国家資格者は、日々さまざまな相談者と向き合っている。
ここでいう「法律職国家資格者」とは、弁護士、司法書士、行政書士、土地家屋調査士、社会保険労務士、弁理士など、自ら事務所を開業し、相談業務や手続代理業務を行う所長を主な対象としている。
開業している以上、その事務所は不特定多数の人々に向けて門戸を開いている。
近年では、自らのホームページだけでなく、所属団体のホームページや各種検索サイトにも事務所情報が掲載されており、所在地や電話番号などは誰でも容易に調べることができる。つまり、法律職国家資格者は「相談したい人」だけでなく、「誰でもアクセスできる立場」にあるのである。
もちろん、多くの相談者は誠実であり、専門家との信頼関係のもとで問題解決を目指す。しかし、実務では対応が極めて難しい相談者に遭遇することもある。
昼夜を問わない電話やメール、契約前にもかかわらず過度な要求を繰り返す、説明内容を何度も覆す、担当者への執着や人格攻撃、SNSや口コミサイトでの誹謗中傷など、その態様はさまざまである。
このような状況が続けば、事務所内が修羅場となり、本来提供すべき法的サービスにも支障を来しかねない。
ごく稀な事例ではあるが、専門家への逆恨みが暴力事件へ発展したケースも報じられている。だからこそ、「自分の事務所だけは大丈夫」という思い込みは禁物である。
法律職国家資格者は、法律の専門家であって、医師や心理職ではない。
相談者の心身の状態を診断したり改善したりすることは職責ではなく、求められるのは、適切な法的サービスを適切な範囲で提供することである。
そのためには、受任前からリスクマネジメントを意識することが重要である。
相談内容を丁寧に聴きながらも、対応に違和感を覚えた場合には慎重に受任を判断する。
受任後は、業務範囲や連絡方法を明確にし、重要事項は必ず書面やメールで記録する。
必要に応じて職員や同業者と情報共有し、一人で抱え込まない体制を整える。
そして、信頼関係の維持が困難であると判断した場合には、受任辞退や契約終了を検討することも、専門家として適切な判断の一つである。
「依頼者第一」は、法律職国家資格者にとって大切な理念である。
しかし、それは「すべての相談者を受け入れる」という意味ではない。
専門家には受任する自由がある一方で、受任しない自由も認められている。
相談者を守ることと、自分自身や職員、事務所を守ることは決して対立するものではない。
健全な執務環境を維持してこそ、質の高い法的サービスを継続して提供することができる。
法律職国家資格者に求められるのは、「誰でも受任すること」ではなく、「適切な相談者に対し、適切な専門サービスを提供すること」である。
その判断力こそが、法律職国家資格者としての品格であり、専門家として長く信頼され続けるための礎なのである。

