小・中学生だった昭和の頃、白土三平先生の忍者漫画に熱中していた。
当時の少年たちを虜にした忍法や劇画の重厚な世界観は、今なお色褪せることがない。中でも「忍者武芸長」は、「カムイ伝」と双璧をなす傑作だったと切実に思う。
作中では、生き残りをかけた残酷なまでの謀略や裏切りが渦巻く。しかし、手段の汚い・汚くない、善悪は別として、登場人物が精一杯且つ躍動感も持って生きている姿に、子供心に強い衝撃と魅力を感じたものだった。
登場する剣術家や忍者は超一流の腕前の切れ者ばかりだ。 結城重太郎の鬼気迫る剣技や、影丸率いる影一族の奇策もさることながら、大人になって読み返した今、とりわけ強烈な異彩を放っていると感じるのが「明智光秀」という男の存在である。
本作における光秀は、単なる歴史上の名将にとどまらない。自分を殺しにきた宿敵・坂上主膳の裏をかいて屈服させ、あえて殺さずに「自らの影武者」として手元でコントロールするという、恐るべき胆力と知略を見せる。さらに精鋭の忍者集団「明智十人衆」を従え、影の領域まで完璧に支配下に置くその姿は、まさに屈指の「超・戦略家」そのものであった。
己の知謀と影武者、そして精鋭部隊を縦横無尽に駆使して戦国を泳ぎ切ろうとしたそのキレ者ぶりに、少年時代の私は心底痺れたのだった。
歴史の表と裏を操り、過酷な時代を自らの戦略で切り拓こうとした登場人物たちの躍動感。時代を超えて語り継ぎたい、まさに劇画史に誇る至高の名作である。

