「エンプロイー・バイアウト(EBO)」とは?〜ドラマ「ハゲタカ」で鷲津政彦が大空電機を助けるために使った秘策〜

コラム

企業買収というと、外部の大企業や投資ファンドが会社を買い取る姿を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。

しかし、会社を買い取るのは外部の投資家だけではない。

その会社で働く従業員自身が、会社の所有者になるという選択肢もある。

これが「エンプロイー・バイアウト(Employee Buyout:EBO)」である。

この手法を理解するうえで興味深い題材が、NHKドラマ「ハゲタカ」である。

主人公の鷲津政彦が、大空電機をめぐる買収劇の中で、企業の存続と従業員の未来を守るために模索した手法として、EBOが登場する。

■ EBOとは何か?

EBOとは、従業員が自社の株式や事業を買い取り、会社の所有権や経営支配権を取得するM&Aの手法である。

一般的なM&Aでは、外部企業や投資ファンドが買収主体となる。

一方、EBOでは、会社の内部事情をよく理解している従業員が買収主体となる。

つまり、「雇われる側」だった従業員が、「会社を所有する側」へと転換する仕組みなのである。

■ ドラマ「ハゲタカ」と大空電機

ドラマ「ハゲタカ」では、日本を代表する電機メーカー・大空電機が経営危機に直面する。

大空電機をめぐっては、外資系投資ファンドによる買収や企業再編が進められ、会社の存続と従業員の雇用が大きな問題となる。

そこで注目されるのが、従業員自身が会社や事業を買い取るEBOという発想である。

通常、企業買収は資本力を持つ投資家が主導する。

しかし、EBOでは、会社の技術、製品、顧客、そして現場の価値を理解している従業員が、企業の未来を担う主体となる。

この構図は、企業の価値が単に株価や財務諸表だけで決まるものではないことを考えさせる。

企業を支えているのは、そこで働く人々の技術、経験、知識、そして信頼関係でもあるからだ。

■ EBOはどのように実現するのか?

例えば、創業者が株式の100%を保有する中小企業があるとする。

創業者は引退を希望しているが、親族に後継者がいない。

そこで、長年勤務してきた従業員たちが会社を買い取ることを検討する。

もっとも、従業員が個人資金だけで会社を買収することは容易ではない。

そのため、金融機関からの融資、外部投資家からの出資、買収目的会社(SPC)の設立などを組み合わせて資金を調達する場合がある。

こうして従業員が株式を取得すれば、会社の所有と経営を内部の人材へ承継することが可能となる。

■ MBO・EBO・MEBOの違い

EBOと似た手法に、MBOとMEBOがある。

MBO(Management Buyout)は、現在の経営陣が自社を買収する手法である。

EBO(Employee Buyout)は、従業員が自社を買収する手法である。

MEBO(Management and Employee Buyout)は、経営陣と従業員が共同で自社を買収する手法である。

いずれも会社の内部関係者が買収に関与する点で共通しているが、誰が所有権を取得し、経営を支配するのかという点に違いがある。

■ 事業承継におけるEBOの可能性

日本の中小企業では、後継者不在が深刻な経営課題となっている。

親族に後継者がいない場合、外部企業へのM&Aだけが選択肢ではない。

長年会社を支えてきた従業員に事業を承継してもらうことも考えられる。

EBOには、企業文化や経営理念を維持しやすいこと、取引先との信頼関係を継続しやすいこと、従業員の雇用を守る方向で承継を進めやすいことなどの利点がある。

一方で、買収資金の調達、借入金の返済、経営者保証、複数の従業員による株式保有など、解決すべき課題も少なくない。

特に注意したいのは、優秀な従業員が、必ずしも優秀な経営者になるとは限らないという点である。

現場で求められる能力と、経営者として求められる能力は異なる。

そのため、EBOを成功させるには、資金調達や株式取得だけでなく、経営戦略、財務管理、組織運営などを含めた後継者育成が不可欠となる。

■ 承継ガバナンス設計という視点

EBOでは、会社を誰が所有するのかという問題と、誰が経営するのかという問題を分けて考える必要がある。

例えば、従業員5名がそれぞれ20%ずつ株式を取得した場合、特定の株主が単独で過半数の議決権を持つことはない。

この状態で経営方針をめぐる意見対立が生じれば、意思決定が停滞する可能性がある。

したがって、株式取得割合、議決権の配分、取締役の選任方法、株主間契約、退職時の株式の取扱いなどを、あらかじめ設計しておくことが重要である。

これは、事業承継における「承継ガバナンス設計」の重要な領域である。

■ エメラルドビューの視点

ドラマ「ハゲタカ」が描いた企業買収の世界では、企業価値をめぐって投資家、経営者、従業員などの利害が複雑に交錯する。

しかし、企業の未来を決めるのは、必ずしも巨額の資金を持つ外部投資家だけではない。

その企業の技術を守り、顧客との信頼を築き、日々の事業を支えてきた従業員自身が、次の所有者となる可能性もある。

EBOは、単なる買収手法ではない。

「会社を誰が所有するのか」
「誰が経営を担うのか」
「企業の価値を誰が未来へ引き継ぐのか」

こうした事業承継の本質を問いかける仕組みでもある。

事業承継とは、株式や資産を移転するだけの手続ではない。

企業が培ってきた技術、信用、経営理念、そして人材を次の世代へつないでいく営みである。

EBOは、「会社を守りたい」という従業員の意思を、企業の所有と経営の仕組みへと転換する、事業承継の一つの可能性なのである。

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