「攻めの経営法務」こそ「戦略法務」〜企業法務の役割はガーディアン機能だけではない〜

コラム

「法務」や「法律」と聞くと、多くの経営者はどのようなイメージを抱くだろうか。

「契約書を細かくチェックしてリスクを指摘してくる人」

「何か新しいことを始めようとするたびに『それは法的に問題があります』とブレーキをかけてくる部門」

残念ながら、多くの中小企業において法務機能は「事業のストッパー」として捉えられがちである。あるいは、専任の法務部がない現場では「問題が起きてから慌てて駆け込む場所」という、対症療法的な位置づけにとどまっているのが実情かもしれない。

しかし、経済産業省が公表した『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能のあり方研究会報告書』を紐解くと、これからの企業が生き残るために必要な法務の姿は、まったく異なる地平にあることが示されている。

同報告書では、法務機能を以下の3つに整理している。

  1. ガーディアン機能(守り)法令遵守、契約書の精査、係争対応などにより、会社の財産や信用をリスクから守る基盤。
  2. ナビゲーション機能(舵取り)単に「ダメだ」と止めるのではなく、法令や制度の枠組みの中でビジネスをどう最大化・前進させるか、経営判断に伴走する機能。
  3. クリエーション機能(攻め・価値創造)ルール形成、新規事業のスキーム設計、M&Aや知財戦略など、法や制度そのものをテコにして新たな競争優位を能動的に創出する機能。

多くの人が勘違いしているのは、「法務=ガーディアン機能」で完結していると思い込んでいる点である。

しかし、本当に強い企業を作るのは、ナビゲーションとクリエーション、すなわち「攻めの経営法務(戦略法務)」に他ならない。

■ 事業承継と労務の現場にこそ「戦略法務」が要る

この考え方は、事業承継の現場に身を置く私にとって、深く腑に落ちるものである。

事業承継とは、単に先代から後継者へ「株式」や「資産」を移転するだけの作業ではない。後継者が率いる新しい体制のもとで、会社が次の10年、20年を生き残り、再び成長軌道を描くための「第二創業」である。

ここにおいて、法律やルールを「守らされる面倒な縛り」と捉えて誤魔化そうとする会社は、例外なく手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

・求人票と現実の待遇に乖離がある(入り口の嘘)

・「昔からのやり方だから」と放置される長時間労働や残業代の曖昧さ

・相談窓口も方針も形骸化したハラスメントの温床

・経営者の胸三寸で決まる不透明な評価と賃金

先代の時代は「阿吽の呼吸」や「滅私奉公」で何とか誤魔化せていたとしても、代替わりのタイミングでこれらが露呈すれば、大卒新入社員が3年以内に去るどころか、会社の屋台骨を支えてきたベテラン幹部や中核社員まで一斉に見切りをつけて離脱してしまう。

後継者がぞんざいな態度を取り、主要メンバーに抜けられた瞬間、会社は音を立てて崩壊する。

■ 制度・構想・人づくりの三位一体へ

だからこそ、後継者が引き継ぐべきは先代の「カリスマによる属人統治」ではなく、「仕組みとルールによる透明な経営基盤」である。

法律や労務のルールを後ろ向きなブレーキにするのではなく、

「社員が安心して力を発揮できる評価・労務制度」をクリエイトし、

「新体制のビジネスをリスク最小限で加速させる合意・契約の骨組み」をナビゲートする。

私は現在、行政書士試験には合格しているものの未登録のため、まだ「行政書士」を名乗ることはできない。しかし、いずれ正式に行政書士登録を済ませた暁には、「行政書士|事業承継士®|後継者育成講師」という三位一体の看板を掲げることになる。

・行政書士(制度・書面の具現化)

契約書や合意形成を、将来の紛争を防ぐ堅牢な法的骨組みとして形にする。

・事業承継士®(グランドデザイン・全体最適)

株や財産、人間関係の交通整理を行い、企業が生き残るための未来の設計図を描く。

・後継者育成講師(ソフト面の血肉化)

その設計図を受け継ぐ次世代リーダーの人間性を鍛え、経営者としての求心力を育てる。

法制度という土台を理解したうえで、リスクを恐れて立ち止まるのではなく、「どうすれば正しくリスクを取って果実を得られるか」を経営者・後継者とともに設計すること。

これこそが、制度と構想、そして人づくりが一つに結びついたときに発揮される、「攻めの経営法務」の真髄であると確信している。

法務はブレーキではない。安全にアクセルを限界まで踏み込むための、最強のナビゲーターなのである。

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