なんば将棋界の梁山泊「天狗道場」

コラム

平成中期まで、なんばに「天狗道場」という将棋道場があった。アマ強豪や有段者が集まり、大変活気のある将棋道場であった。もちろん、道場内はタバコの煙が目に染みるくらいモクモクであった。

僕はそこに1996年から1997年まで2年間通った。その2年間というのは僕の旧司法試験受験生のラスト2年間でもあった。もうやる気を失い、ほとんど法律の勉強をしていなかった。

さて、なんば「天狗道場」は、平成初期ということでまさに昭和の雰囲気プンプンであった。NHK朝ドラ「ふたりっ子」の銀爺のモデルの太田学 初代朝日アマ名人が指導対局もされていた。

そして、一部有段者の間では「賭け将棋」が行われていた。ちなみに、アマチュア裏将棋界では、「賭け将棋」のことを「真剣」と呼ぶ。

「天狗道場」は、オーナー白石先生と加藤先生で運営されていた。将棋自体は主に加藤先生に教わった。

白石先生は面倒見の良い人で、当時、司法浪人をしていた僕の境遇を案じてくれた。一度、お好み焼きをご馳走になったこともあった。そこでの会話を回想する。

白石先生「今井君、将来どうするんや?弁護士は難しいとして、刑事やったらどうや?」

僕「いや、僕、怖がりだから刑事には向いていないと思います」

白石先生「何、男が怖がってるんや!まあ、それやったら仕方ないとして、今井君優しそうやから、介護とか老人相手の仕事はどうや?」

僕「いや、僕、体力に自信がないので介護の仕事は無理だと思います」

白石先生「なんや、それもアカンのか!まあ、すぐに決めんとゆっくりと決めたらいい」

実は、内心では、僕は将棋道場をしようとしていたのだが、同業になるためこの時は言えなかった。

結局、先生に打ち明けたのは結構ギリギリであった。先生は嫌な顔もせず、「頑張りや!」と言ってくれた。オープン間もない時期にお祝い金を持ってわざわざ僕の将棋教室に来てくれた。

20代半ばの平成初期、進路で悩んでいた2年間、僕は「天狗道場」によって救われた気がする。白石先生と加藤先生には本当に感謝している。

今でも、ミルクも砂糖もあらかじめ混ぜられている「天狗道場」での200円のインスタントコーヒーの味は覚えている。 

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