自分にとっての「仕置人」シリーズでの好きな回 —初期の中村主水は口喧嘩の挙句…—

コラム

「仕置人」シリーズと聞いて思い浮かべる中村主水の姿といえば、どんなイメージだろうか。

後年のシリーズで見られるような、どこかコミカルで要領の良い立ち回りを思い浮かべる人も多いかもしれない。

しかし、自分にとっての「仕置人」で一番好きな回、そして中村主水という男が一番輝いていた(そして一番荒々しかった)のは、間違いなく『新・必殺仕置人』あたりまでの初期作品群だ。

当時の主水は、決して正義を振りかざすヒーローなどではなく、どこまでもリアルで泥臭い「裏稼業の男」だった。

奉行所では冴えない昼行灯として冷遇され、家庭でも肩身の狭い思いをしながら、裏では引き受けた仕置きを粛々と遂行する。

正義の味方にはなり得ない自分の立場と哀愁を誰よりも自覚しているからこその、生々しい凄みがあったのだ。 とりわけ印象的なのが、悪党や因縁の相手との対峙シーンだ。後期仕事人の時のような省エネ的闇討ちなどではなく、道端で互いのエゴや非情な企みをぶつけ合う「口喧嘩の挙句の斬り合い」である。

その凄絶なやり取りを象徴する大好きな回の一つが、『必殺仕置屋稼業』第9話「一筆啓上 偽善が見えた」だ。

劇中、長谷川明男が演じるのは表向き「貸本屋の孫兵衛」、その実体は裏で蠢く隠密廻りという屈折した悪党。主水は相手の化けの皮を剥ぎ、追い詰めていく。そのラストの仕置シーンが実に凄まじい。

道端で互いに感情を爆発させ、「お前は意地の悪い隠密廻りだ。やり過ぎなんだよ!」と捨て台詞を吐いて中村主水が斬りかかった。

したたかな孫兵衛は、一瞬の隙を突き、なんと主水の刀(大刀)を奪い取って逆襲モード。

主水最大のピンチ——しかし次の瞬間、主水は間髪入れずに脇差を抜き、相手の腹を深く刺し貫く。

華麗な必殺技ではなく、時には刀を奪い合い、言葉を叩きつけ合いながらぶつかる「ガチンコの斬り合い」。

相手が逆上して刃を抜いてくることすら織り込み済みで、きっちりと返り討ちにするあの凄みと圧倒的な強さ。

さらには、牢屋見廻り同心に格下げされた『必殺仕業人』時代に見せた、奉行所の元同僚たち(町方)の捜査網を誰よりも恐れ、正体を隠すために普段のストールで顔を覆いながら暗闇に潜むあの用心深さ。

「町方を本気で恐れていたからこそ、一切の隙を捨てて冷酷になれた」 初期の中村主水が放っていたあのヒリヒリするような緊張感と、口喧嘩の延長にある人間の業(ごう)のぶつかり合い。

綺麗なヒーロー像とは無縁な「裏稼業の凄みと哀愁」こそが、自分にとっての初期「仕置人」シリーズにおける最高の魅力であり、語り継ぎたい「好きな回」の真髄なのだ。

タイトルとURLをコピーしました