熱帯夜の気怠い空気と、肌にまとわりつく欲望。1981年公開の傑作ネオ・ノワール『白いドレスの女』(原題:Body Heat)は、古典的なフィルム・ノワールの骨格を受け継ぎながら、計算し尽くされたプロットで今なお強い存在感を放つミステリー映画である。
主人公は、フロリダで開業する弁護士ネッド。腕利きを自負し、女性の扱いにも慣れたプレイボーイだ。そんな彼が夜の海岸通りで出会ったのが、白いドレスに身を包んだ妖艶な人妻マティであった。奔放でどこか陰のある彼女に心を奪われたネッドは、夫エドムンドの莫大な遺産をめぐる完全犯罪計画に引きずり込まれていく。
本作の白眉は、まさに「法律や実務を知り、世渡りに自信のある男」が、その自信ゆえに足元をすくわれる心理の描写である。
ネッドは弁護士であるがゆえに、自らの知識で捜査網をかいくぐり、完全犯罪を演出できると過信していた。しかし、彼が主導していると思い込んでいた筋書きは、すべてマティの手のひらの上であった。遺言書の作成手続き、意図的な記載不備による法定相続への誘導、果ては身代わりを使った緻密な偽装工作まで、すべての駒は最初から彼を嵌めるために配置されていたのである。
「自分は女をリードしている」「法の隙間を突いてうまく立ち回っている」という慢心こそが、客観的な危険信号を遮断してしまう。友人たちの忠告も耳に入らず、違和感に気づいたときにはすでに逃げ場のない檻の中であった。
ラストシーン、刑務所の冷たい格子越しに真相の全貌を悟る男と、南国の眩しい日差しの下で冷徹に微笑む女の対比は鮮烈である。大人の鑑賞に耐えうる重厚なサスペンスであり、「知性や自信が最大の盲点に変わる瞬間」を描いた教訓的な一作としても、実に深い余韻を残す作品である。

