7月下旬の梅雨明け前後から予備校各社でスタートし、10月中旬の最終調整に至るまで、行政書士試験受験界はいわゆる「模試シーズン」の真っ只中へと突入する。
大手予備校の看板模試ともなれば、日曜日ごとに本試験と同じ「13:00〜16:00」の枠で全国一斉に実施され、会場には独特の殺気が立ち込める。夏場までにテキストや過去問を何周も回し、満を持して乗り込んできた受験生ほど、この模試という場で強烈な洗礼を浴びることになる。
行政書士試験における公開模試は、単なる「実力測定」ではない。それは、現場思考力、タイムマネジメント、そして精神的耐久力を試す極めてシビアなストレステストである。
1. 司法書士試験との決定的な構造差――「現場思考」という異種格闘技
同じ法律系国家資格であっても、司法書士試験と行政書士試験とでは、求められる知性のベクトルが大きく異なる。
司法書士試験が、膨大な条文・先例・登記実務の知識を1ミリの狂いもなく正確無比に引き出す「超精密な情報処理戦」であるとするならば、行政書士試験は「未知の課題に対して手持ちのリーガルマインドで喰らいつく異種格闘技戦」の様相を呈する。
本試験や直前期の模試において、基本書や過去問集の焼き直しだけで解ける問題はごくわずかだ。憲法や行政法では見たこともないマイナー判例の長文をその場で読解させられ、裁判官の法論理をトレースすることを強いられる。民法では長文の事例問題から当事者の法律関係を即座に図式化し、条文の趣旨や要件効果の原則からロジックを現場で再構築しなければならない。
テキストの暗記に終始してきた学習者は、模試の会場で問題用紙を開いた瞬間に思考停止に陥る。この「未知の球に対する現場対応力」こそが、合否を分ける最大の分水嶺となる。
2. 3時間1本勝負における「時間配分」と「魔物」の正体
行政書士試験には途中の休憩が存在しない。3時間ぶっ通しで60問(択一式・多肢選択式・記述式)を処理し、さらに40字記述式を3問まとめ上げなければならない。
この過酷なフォーマットにおいて、7月〜10月の模試で多くの受験生が直面するのが「時間配分の崩壊」である。
- 民法の難解な事例問題で足を取られ、気づけば時計の針が15時を回っている
- 記述式のマス目を前に、キーワードは浮かぶものの条文上の正確な語句が定まらず、消しゴムで時間を浪費する
- 最後に回した業務関連諸法令や文章理解を読む時間が消失し、足切りライン(24点)の恐怖に背筋を凍らせる
会場内に響く他人の鉛筆の音やページをめくる速度に呑まれ、視野狭窄に陥った瞬間、本来取れるはずの平易な基本問題まで落としていく。模試という疑似空間でこの「パニックの再現」を経験し、自らの脆さを骨身に染みて理解することに、この時期の模試を受ける本質的な価値がある。
3. 「運」と「体調」をねじ伏せる胆力
行政書士試験は、合格ラインである180点の前後に受験者層が密集する。合否の境界線にいる数千人は、わずか1〜2問(4〜8点差)のなかにひしめき合っている。
そこには、記述式の採点基準の振れ幅、択一式で2択まで絞ったあとの当落、一般知識・諸法令の出題傾向といった、構造的な「運」の要素が確実に介在する。だからこそ、当日の体調管理やメンタルのコンディションが合否に直結する。
睡眠不足や緊張による脳の機能低下は、現場思考の精度を著しく落とす。未知の難問にぶつかった際に「これは全員が解けない捨て問である」と1秒で切り捨てられる割り切りや、マークのズレに動じない図太さといった「勝負師としての胆力」がなければ、運を引き寄せることはできない。
4. 模試の点数に一喜一憂しない者が最後に残る
7月下旬から10月中旬にかけて返却される模試の判定やスコアに、心を奪われてはならない。模試で高得点を取って慢心した者が本試験の現場思考に足元をすくわれ、E判定を突きつけられて青ざめた者が弱点を冷徹に補強して本番で捲る光景は、毎年のように繰り返されている。
模試とは、本番で踏むはずだった地雷をあらかじめ自ら踏み抜きに行く作業である。
出題者のトラップを分析し、時間配分のプロトコルを修正し、未知の問題に対峙したときのメンタルコントロールを身体に叩き込む。7月から10月という季節は、単なる知識の蓄積期間ではなく、本番の修羅場を冷静に生き残るための「実戦感覚」を研ぎ澄ます期間にほかならない。

