1970年代後期の空前のスーパーカーブーム 〜昭和の下町の駄菓子屋さんや模型屋さんでは?〜

コラム

昭和50年代前半、日本の路地裏や学校の教室は、かつてない異様な熱気に包まれていた。火付け役となったのは、1975年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった池沢さとし氏の漫画『サーキットの狼』である。最高速度300km/h、くさび形の鋭利なフォルム、天に向かって開くシザードア。遠い海の向こうのスーパーカーたちは、当時の子どもたちの日常を一変させた。

少年たちの心を二分した、伝説の主役マシンたち

ブームを牽引したのは、強烈な個性と数値を掲げた名車たちであった。その頂点に君臨したのがランボルギーニ・カウンタックLP400である。SFメカのようなウェッジシェイプと上方に跳ね上がるドア、そして公称「最高速度300km/h」のスペックは、少年たちにとって完全な絶対王者であった。

これに真っ向から挑んだのがフェラーリ512BB(ベルリネッタ・ボクサー)である。カウンタックの300km/hに対抗して打ち出された公称「302km/h」というわずか2km/hの差を巡り、教室のあちこちで「どちらが本当に速いのか」と果てしない論争が巻き起こった。

さらに、流麗な曲線美と特徴的なまつ毛ヘッドライトで神格化されたランボルギーニ・ミウラ、妖艶なボディラインで魅了したフェラーリ・ディーノ246GT、巨大なリアウイングとワイドフェンダーで圧倒的な威圧感を放ったポルシェ930ターボ、ラリーの血統を受け継ぐ戦闘的なランチア・ストラトス、そして漫画の主人公・吹雪裕矢の愛車として「軽さとコーナリングで大排気量車をねじ伏せる」カタルシスを教えてくれたロータス・ヨーロッパなど、少年たちはまるで呪文のように各マシンの排気量やエンジン形式を諳んじていた。

10円玉を握りしめて通った「下町のガレージ」駄菓子屋

休日の晴海見本市会場などで開催される本格的なショーへ足を運べずとも、昭和の下町には少年たちがその熱狂を肌で味わえる場所があった。近所の駄菓子屋である。

店先に鎮座する20円のガチャガチャで引き当てる「スーパーカー消しゴム」。ここでもカウンタックや512BBは大人気であった。三菱鉛筆のBOXYボールペンを分解し、中のスプリングを限界まで引っ張って威力を高め、教室の机をサーキットに見立てて弾き飛ばし合った。滑りを良くするために底面に瞬間接着剤を塗ったり、セロハンテープを貼るなど、当時の子どもたちなりにマシンの「空力と摩擦」を追求したものである。

店内に一歩入れば、壁一面に吊るされた「くじ引き(当て物)」の台紙が迎えてくれた。1回30円や50円のクジをめくり、特賞の大きなダイキャスト製カウンタックを狙うものの、当たるのは決まって末等の小さなプラスチック製ミニカーであった。それでも歪んで貼られた「TURBO」のシールを眺めながら、自分だけの愛車としてポケットに忍ばせた。

カウンター横に平積みされていたアオシマやニットーの「100円プラモ」も欠かせない。接着剤不要のスナップキットやゼンマイ付きで、買って帰れば30分で完成した。畳の上を勢いよく走らせては柱に激突させ、壊れたらまた次の100円玉を握りしめて駄菓子屋へ走る。そこには、子どもの日常に溶け込んだ気軽でダイナミックな熱気があった。

大人の世界へと背伸びした「ガラスケースの向こう側」模型店

一方で、町の模型店(プラモ屋)の敷居をまたぐ瞬間は、どこか厳かな緊張感があった。

店内の高い棚には、タミヤや東京マルイが誇る1/24スケールや1/12スケールの大型キットがずらりと並んでいた。価格は数百円から数千円。子どもの小遣いではおいそれと手が出ない「高嶺の花」である。ガラスケースの中に飾られた店主手作りの完成見本――美しく研ぎ出された深紅の512BBや、ドアを跳ね上げたイエローのカウンタックを、ため息をつきながら眺めたものであった。

誕生日やお年玉でようやく手に入れた本格キットは、駄菓子屋のプラモとは何もかもが違っていた。爪切りでパーツをもぎ取るわけにはいかず、ニッパーとタミヤセメントを揃え、小さな小瓶の塗料と面相筆で震える手で窓枠のシルバーを差す。

マブチモーターを仕込んで猛スピードで走らせる「モーターライズ」の爽快感に胸を躍らせる者もいれば、精密に再現されたV12エンジンを眺める「ディスプレイモデル」に美を見出す者も現れた。麦球を仕込んでヘッドライトを点灯させたり、スプリングでリトラクタブルライトが開閉するマルイのギミックに、機械工学の面白さを教えられた少年も少なくなかった。

駄菓子屋で競い合った即席のレースと、模型店のカウンターで教わった精密なモノづくりの手触り。

1970年代後期のスーパーカーブームは、単なる外国車への憧れにとどまらず、昭和の路地裏カルチャーと結びつくことで、当時の少年たちに「メカニズムへの探求心」と「本物への美意識」を強烈に植え付けた。夕暮れの駄菓子屋の店先でカシャカシャと鳴っていたミニカーのプラスチック音は、半世紀近く経った今も、あの熱い時代の記憶とともに鮮やかによみがえってくる。

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